「藤吉 裕和の山の中から子ども達に向けて」


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「おっちゃん」と「山の中」をキーワードに、昆虫の家の紹介から設立のいきさつ、現在の活動をご紹介します。

作者紹介
藤吉 裕和
1973年4月26日、北海道常呂町産。地元の高校卒業後、家業の農業を後継しながら通信情報系フリーライターをする。その後、離農し網走のOA機器修理職を経て現在建設会社勤務。常呂町在住。

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■第20話

 あと5日で6月になります。今は常呂の漁師さん達がホタテの放流作業のまっただ中。サロマ湖で大切に育てたホタテの赤ちゃん貝(稚貝)を引き上げ、そしてオホーツクの海にまくという作業。農家の作物のまき付けと同じく、ホタテを育てるための大切な春のお仕事です。そして、豪快な漁師さん達は、私たちにも食用として稚貝をたくさんお裾分けしてくれます(本当はダメらしいのですが・・・)。
 さて、20回目を数えてしまいました。実は、20回目の原稿はすでに書き上がっていました。でも、どうしても20回目に入れたい出来事があり、こちらを優先してみました。余談ですが、最終話も書き上がっています。ただ、最終話までのお話はまだ白紙です。北海道クラブさんから「もうそろそろ完了してください」という要請があるか、書くことが尽きた時には、その原稿を送って幕引きをするつもりでいます。

春の海の風物詩「ホタテの稚貝放流」

 先日、たくさん手伝ってくれた北見工大の卒業生、イノッチから久方ぶりに電話がありました。大手舗装会社に就職し研修期間を終えてようやく配属が決まったそうです。その職場のコンピュータから久々に昆虫の家のホームページや、この原稿を読んだよという感想を伝えるものでした。電話が苦手な私なのですが、話し込むと長くなってしまうという悪い癖があります。懐かしかった、そんな思いがあったのかもしれません。
今の昆虫の家の事、夏に開催されるいきいき2004の事とか、いろんな話をしました。いまだに昆虫のおっちゃん達は、時々イノッチ達の話をしているよと話すと、うれしいなぁと言っていました。
 そうなんです。去年の夏から約半年間。昆虫の家のおっちゃん達と触れあっただけなのです。それでも、これだけの多くのおっちゃん達に、強烈な記憶をすり込んでいった、これは何かあるのに違いない事でしょう。

昆虫の家に生息するおっちゃん達

 今まで、若い力というのはなかなか入ってこなかったという事もあるでしょう。網走管内で高校生や大学生がボランティアで昆虫の家に来るということはなかったように思います。短期間はあったようですが、2度目はなかったのです。
ところが、イノッチ達は何かあるときは自分の用事を置いてでも、事務局長の呼び出しに応じて手伝いに来てくれました。おっちゃん達がたまに言う、毒のある言葉にもすっかり耐性をつけ、そして仲間に入ってきました。
忠津理事は、飲みはじめて、ある程度時間がたつとその場所で横になって寝てしまいます。それをイノッチ達は布団を敷き、「忠津さん、こっちこっち、寝るよ」などと言葉巧みに誘導し、ちゃんと寝付かせます。ほかの人たちがまねて誘導しても、テコでも動かないのですが、不思議と素直に誘導に従うのです。先日の日曜日、忠津理事が泊まっていったときは、床の上で寝ており、毛布だけが掛けてあったと聞きました。
武田理事は、初対面の子供達と短時間で触れあい、一緒になって遊んでいる様子を見て、「人徳だねー」と言っていました。自然と、イノッチの周りには子供達が集まっていたのです。

子供達に囲まれているイノッチ
 
 こんな若者達の、後継者を見つけなければダメだね。こんな話になります。でも、こんな若者達はもう昆虫の家のボランティアとしては現れないような気がしています。今まで多くの若者達に、ボランティアに参加してほしいという要請を出し続けています。でも、参加してくれる人はほとんどいませんでした。そう、みんながやりたがらないボランティアであることは間違いないようです。
 ボランティアは、昆虫の家流で言えば「自己満足の世界」。自己満足で終わらすか、それよりちょっぴりだけ進めたものにするか、これはそれぞれの考え方次第だと思います。
 人は、いろんな人とふれ合い、最初はぜんぜん相手にされなくっても、まだまだ仲良くなっていなくても、馬鹿なことを話したり、一緒に笑ったり、議論を交わしたり、納得したり。いろんなプロセスを経て、互いに影響しあうものではないかと思います。今の昆虫の家のおっちゃん達には、イノッチ達の若い者の影響が大なり小なり出ているような気がします。協力員の北見市の佐藤さんは、「はんかくさい奴らがいなくなったから、おもしろくないね」とも言います。
 人間関係って不思議なものです。不思議だからこそ、大変だったりする面もあるでしょう。さて、ここで話題にした当人達は、どう思ってるんでしょうか。でも、多少は昆虫の家に生息する、生命力が強く(語気も強いが)、いろいろな人生経験をしているおっちゃん達の味が染みこんでいるような気がしています。この染みこんだ味に自分たちが気づいた時、きっといろんな辛いことでも乗り越えていけるのではないでしょうか。生命力が強くなっているのですから。
 吉野の山の中、これからもどんな人間模様が展開されていくのでしょうか。素敵な出会いがたくさんあればいいな、と、思いを馳せるのでした。

(続)

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