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作者紹介
ペンネーム:たけ
196X年、千葉県生まれ。野球を愛する、20数年来の熱狂的ファイターズファン。アウトドアを趣味としてはいますが、その行為自体より活動の場である自然そのものにより大きな魅力を感じています。ここではそうした自然にまつわるエピソードなどを中心にお伝えしていきます。

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第3回 原始と文明の狭間で

 川での遊びは楽しい。だがひとくちに「川」と言っても様々な川があるだろう。
 北海道の空の玄関口「新千歳空港」のほど近く、道内随一の交通量を誇る「国道36号線」の傍らに、「美々川」(びびがわ)という川が流れている。とても短く小さな川だが、その名に違わぬ美しさで、原始の姿を留め、様々な生命に恩恵を与え続けている。
 私は10余年の月日をこの川の近くで過ごした。その間にいったい何度足を運んだことだろう。美々川は四季折々に、様々な表情で私を迎えてくれた。
こんな川で遊ばせて貰うには、やはりカヌーが楽しい。カヌーならば川により近いところで、美々川とそれを取り巻く自然の息吹を感じることができるに違いない。
 川面にカヌーを滑らせ、流れのままに川を漂う。その瞬間私の時間軸は、川の流れの早さと同化し、私の腕に巻かれた機械は何の意味も持たなくなる。そうして流れに身を委ねている時間は、私にとって微塵の隙もない至福のときである。
川はもちろんコンクリートで護岸されていたり、ダムなどで堰き止められたものではなく、何も遮るものが無く、曲がりくねった、原始の姿のままの川がいいに決まっている。だがそうした川の多くが、私たちの便利な生活と引き替えに失われてしまった。一般的に自然が豊かだと言われる北海道でもそれは例外ではなかった。札幌〜苫小牧間の低地帯でこれほどまでの原始性を保っているのは、現在ではもう美々川だけである。
 だがそんな美々川を全国区にまで有名にしたのは、皮肉なことに「千歳川放水路計画」だった。この計画は1982年3月に建設省の河川審議会というところでつくられたもので、増水した千歳川の水を人工放水路によって太平洋側に出してしまおうというものだった。これが完成したならば美々川に供給される地下水は放水路に抜け出てしまい、美々川とその周辺の環境に深刻な影響を与えるだろうことは想像に難しくない。が幸いなことにこの計画は、1999年3月に中止が決定された。
 千歳川放水路計画は中止されたものの、美々川は今日も微妙な地理的条件の中を流れている。頭上では轟音とともに絶え間なく航空機が飛び交い、傍らの国道を自動車がまるで時間と競争するが如く猛スピードで走っていく。水源である千歳湖周辺には美々ワールドが建設され、上流部には千歳市のゴミ処理施設も隣接している。これらは紛れもない文明社会の産物であり、象徴でもある。
 美々川をカヌーでのんびりと下っていく。水源では太古の昔より変わらず、豊かな清い水が湧き出し、川は滔々と流れ続ける。曲がりくねった川の途中では白鳥が出迎えてくれた。彼らは私たち人間を見て、何を思うのだろうか。そして私たち人間は、原始と文明との狭間に残されたこの川で何を思うのだろうか。 

(続)

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