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作者紹介

寺山善規(てらやまよしのり)

小樽市生まれ。道内限定の転勤族で、初任地の留萌市に10年勤務後、02年から札幌市に在住。宅飲み愛好家で、「家族の笑顔と気の置けない仲間、あとは大量の安酒があれば幸せ」がモットー。


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「留萌生活」
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■ 第6話 イクラの季節

 イクラが旬である。
 今年の秋サケ漁は、滑り出しこそ鮭の回遊の遅れや台風18号の影響により低調であったが、ここにきて日本海側が豊漁となっており、全体としては平年並みまで回復しているらしい。
 一方、卸売価格の方は当初の不漁が尾を引いているのか、依然昨年と比べ高く推移していると報道されているが、生筋子の店頭価格はそれほど値上がりしている訳ではなく、一消費者としては嬉しい限りである。

 我が家でイクラを作るのは専ら私の仕事だ。いや仕事と言うより、むしろ趣味と言っていい。
 特に今年は異常なまでに情熱を注ぎ込んでおり、毎週毎週、飽きずに漬けている。
 生筋子のほぐし方や漬け汁の分量などを毎回少しずつ変えて工夫を重ねているのだが、遂に先週末、我ながら納得のいくイクラが完成したので、紹介したいと思う。

 まず、ほぐし方。50〜70度のお湯を使うと簡単にほぐれるので一般的だが、この方法だと漬けてから3日目を経過した頃から皮が固くなってくる。それもゴムのように弾力を持った固さなので、歯触りが悪い。イクラは歯に触れた瞬間に弾けなくてはいけない。面倒でも、塩を一掴み入れた冷水で丁寧にほぐしていく。

 ほぐし終わったら、神経質なまでにイクラを良く洗う。筋や破れた皮が残っていると生臭さの原因になるし、何と言っても見た目が悪い。顔を近づけてイクラを凝視し、綺麗になるまで何度も水を替えて洗い続ける。

 次に漬け汁。醤油、日本酒、みりんが一般的である。稀にだし汁を加える家庭があるが、私はせっかくのイクラの風味が損なわれるような気がして、今まではあまり好まなかった。
 しかし先週末、隠し味程度にごく僅かな量だけ入れてみようと急に心変わりして、花がつおで取っただしを加えてみたところ、イクラにまろやかさが出て格段に旨くなった。
 この時、鰹だしが入っていると感ずかれるほど入れてはならない。鰹だしは香りが強烈なので、せっかくのイクラ本来の味が損なわれてしまう。
 日本酒は冷やで飲んでも旨いものを、みりんは本みりんを選び、じっくりと低温で加熱してアルコールを飛ばす。
 醤油選びも大切だ。出来るだけ上質なものを選び、熱は加えずそのまま使う。

 さあ、あとは漬け込みだ。漬け込みは、洗いまでの下準備と比べると実に簡単である。
 適当な容器に好みの割合で作った漬け汁を注ぐだけだ。コツとしては、漬け汁は何度かに分け、味やイクラの張りを舌で確かめながら半日ほどかけて加えていくことぐらいだ。生イクラの漬け汁の吸い方は、時期や鮮度、そして漬け汁の塩分濃度によってかなり差があるからだ。

 最後にいわゆる「ピンポンイクラ」についても書いておこう。
 漬け汁をパンパンに吸った皮の固いイクラのことを北海道では「ピンポンイクラ」と呼ぶ。これは、イクラがピンポン球のように良く転がり、そして良く弾むためだ。
 イクラは、歯に触れた瞬間に弾ける状態のものが最良であり、ピンポンイクラは張りがあって見た目は良いが、固くて口の中で収まりが悪く、失敗作である。

 このピンポンイクラは、箸で一口分すくい上げようとしてもポロポロとこぼれてしまうし、こぼれたイクラが運良く丼の中に収まればよいが、テーブルの上や床に落ちるとコロコロとどこまでも転がってしまい質が悪い。
 コロコロと転がるイクラを見て子供は吹き出して食事どころではなくなるし、運悪く義母の方にイクラを転がしてしまった場合、「すいません、お母さんの足元の方へ転がりました」などと間の抜けた謝罪をしなければならないことになり、気まずいことこの上ないのだ。
 イクラをピンポンにしないコツは、材料選びに尽きる。産卵直前の成熟しきった粒の大き過ぎるもの、特に自然にほぐれ出しているようなものは避けたほうがいい。
 普通、スーパーではこのようなイクラはあまり見かけないが、特売品などを買うときには注意が必要だ。

 幾分、誇張の多い、そして自己満足的なイクラ奮闘記であったが、書いているうちにまた漬けたくなってきた。さて、今週末はどう一工夫しようか。

(続)



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