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作者紹介

なつい・いさお 
1968年東京生まれ。
高等養護学校を卒業後、数年の
施設生活・親元での生活を経て、
20歳代半ばから1人暮らし。
3年間札幌ススキノ地区に住み、
同地区などの飲食店のバリアフ
リー化に取り組んでいたが、
02年結婚を機に豊平区に移転。
一女の父。


 

第13回「ちょっと言わせて―『専用席』」


 最近、「高齢者・障害者専用席」とか「〜優先」といった表示を見かける機会が多くなった。地下鉄などのシルバーシートや駐車場などに限らず、さまざまな場所でこの表示を目にする。こうした場所が増えるのは、車いすで生活する私にとっても非常にありがたい話だ。だが、果たしてこれらの「扱い」は、いわゆる社会的弱者と呼ばれている人たちの生活をサポートする上で、本当に理にかなったものなのだろうか。

 たとえば、地下鉄のシルバーシート。最近はお年寄りだけでなく、妊婦や体の不自由な人たちなどが安心して座れる場所として利用されているのを、よく目に する。体の不自由な私の友人などもよく使っているようだが、たまに座れないこともあると聞いた。
 シルバーシートに遠い乗降口から乗車してしまうと、席をゆずってもらえないがため座れずに苦労するというのだ。シルバーシートまで移ろうにも、ただでさえやっと歩いている彼が、混み合い揺れる車両の中を移動するなど、とうてい無理な話だ。そばにいる人が席をゆずってくれればいいと思うのだが、「シルバーシートを使えばいい」と思われているのか、そういった場面で席をゆずられたことはほとんどないそうである。

 数年前、研修で訪れたアメリカで、いささか驚いたことがある。米国は日本よりも障害者の社会参加を保障する諸制度が充実しており、あらゆる点でこちらよりも環境整備が進んでいるのだが、私が驚いたのはそういう取り組みではない。当たり前に席をゆずったり、困った時に手を差し伸べてくれる人々―。こうした人たちの存在こそ、大きな驚きだったのだ。もちろん日本でもそういう人たちは多くいるが、先ほどの彼の例をとってみても、まだまだ十分とは言いにくい。

 「専用席」では、こんなこともある。混み合う地下鉄の中、周囲にシルバーシートを利用しそうな乗客が見あたらないにもかかわらず、そこだけが空席になっている光景。専用席であろうとなかろうと、空いていればどんどん利用すればいいと私は思うのだが、「専用」となっている以上そうはいかないと考える人が多いのか、空いているシルバーシートに座った若者が怒鳴りつけられていたことさえあった。たとえ若者であっても、座りたいと思うのは自然なことだ。空いているなら座らせてやれば良いものを、「専用席」と表示されているだけで締め出してしまうのはいかがなものか。

 無論、設備やルールにそういった格差をつけることで、社会的に弱い立場にある人々の生活を保障していくことも必要だろう。しかし、立場を越えたゆずり合いや助け合いといった、本来誰もが持っているであろう精神を育むことが、結果として後回しにされてはいないだろうか。
 まぁ、ストリップ劇場やキャバクラに「夏井様専用席」が設けられるのは、それはそれで大歓迎なのだが…。

(「札幌タイムス」2002年09月09日)
(続)



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