大谷地恋太郎の地方記者日記

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作者紹介
ペンネーム:大谷地恋太郎
日本各地を転々とする覆面記者。
取材中に遭遇した出来事や感じた事を時に優しく、時に厳しくご紹介します。

(以下は大谷地氏とは関係ありません)

小西 和(1873-1947)
香川県生まれ。札幌農学校を1894年(明治27)に卒業後、開拓を志し栗沢に小西農場を開く。1899年(明治32)に農場を人に譲り東京朝日新聞に入社。新聞記者として日露戦争に従軍した。衆議院議員7回当選。

■地方記者日記128
 フェアレディーZ
by大谷地恋太郎

 私が勤務、かつ生活している支局の目の前に、やや広い駐車場がある。以前は大型店の従業員駐車場だった。大型店が撤退してしまったため、一時は更地だった。それを一年以上前に、再び駐車場として整備された。
 使っているのは、全員が地元市役所に勤務する職員たちだ。
 札幌や東京のような大都市だと想像できないだろうが、地方にいる公務員は電車やバスではなく、マイカー出勤が多い。公共交通手段が限られているのもあろう。多くの職員がマイカーで出勤してくる。この駐車場に来て、マイカーを置いて、職場に行く、というわけだ。
 こうした生活習慣に慣れなかった私は、最初は奇異に感じた。環境保護とか地方自治体のテーマなのに、二酸化炭素を空中に放出する車に乗って、市役所に来るとは矛盾している。公共のバスで来れば、環境に優しいはずなのに。地方によっては、「ノーマイカーデー」と称して、一カ月に一回はマイカーの勤務を禁止している自治体もある。
 奇異に感じたのは、それだけではない。
 こうしたマイカーに交じって、一台だけ、日産のフェアレディーZがあるのだ。三十代後半ぐらいの男性職員が乗ってくる。
 フェアレディーZは日本を代表する高級スポーツカーだ。ゴーン社長がトップダウン方式で、今のデザインに一新させた。日産が誇るスポーツカーでもあるのだ。
 そんな車を、地方の市役所に勤務する公務員が乗ってくる。
 他の職員は、通常の乗用車やワゴン車などで、スポーツカーに乗ってくる人間はいない。
 奇異に映ることを、私は最初のうちはうまく説明できなかった。
 地方公務員だと言っても、中小企業よりずっと給料がいいだろうし、カネをためて買ったかもしれない。親が裕福で買えたのかもしれない。
 そんなに詮索してもプライバシーの問題になってしまうかも、と思った。
 しかし、何回も何回も、毎日のように見続けて、奇異な光景に移る理由が分かった。
 そう、服装と同じなのだ。
 例えば、真夏の暑い時期、東京・丸の内で働くOLが、ド派手なワンピースを着て出勤してきたら、周囲にはどう映るのだろうか。
 クールビズが流行りだしたと言っても、最低限の、不快な格好を避けて、それでも働くような服装こそが、正しい。
 これは男性も同じだ、暑いからと言って、半ズボンのような格好で出勤する人間はいない。
 マイカーも同じだ。この駐車場は、市役所の職員が乗り付けていることを、周囲の住民は全員が知っている。公務員として見られている以上、いくらマイカーで出勤することを許されたとしても、派手なスポーツカーの出勤は慎まなくてはならない。
 そう、公務員とは、そういう職業なのだ。
 駐車場を借りるにはもちろん金が要る。個人負担で数千円払っているからいいだろう、というわけにはいかないのだ。
 このフェアレディーZに乗ってくる男性は、公務員であることの自覚がないから、常にこのスポーツカーに乗ってくるのだろう。マイカー出勤をしたいなら、ボロの軽乗用車にしなさい。
 公務員の皆さんよ、みんなは見られている、という意識が欲しい。

(続き)



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