大谷地恋太郎の地方記者日記

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作者紹介
ペンネーム:大谷地恋太郎
日本各地を転々とする覆面記者。
取材中に遭遇した出来事や感じた事を時に優しく、時に厳しくご紹介します。

(以下は大谷地氏とは関係ありません)

小熊幸一郎(1866-1952)
現在の新潟市生まれ。1887年(明治20)渡道、函館の廻船問屋にて働きはじめる。1895年(明治28)仲買店を開き樺太漁業に着手、サケ・マス漁業の発展に貢献した。また函館の港湾改修や漁業資材の生産向上を目指し、公的施設の建設資金を寄付するなど幅広く社会に貢献した。

■地方記者日記116
 ヤクザ
by大谷地恋太郎

 土曜日のこと。
 たまにはイタリア料理でも食おうと思って、駅前通りに面したビルの二階にある洋食屋に入った。初めての店で、ランチにピザやパスタ、ハンバーグ、ビーフシチューなどを用意している、という電光掲示板まであって、一度は行ってみようと考えていた。
 二階への階段を上がって、店に入った。
 正午前で、だれもいない。
 店の窓に近いテーブル席に座った。
 たまにはピザでも食べようと思って、注文した。
 やや高齢の女性がウエートレスをしていた。
 たぶん老夫婦で経営している個人の店なのだろう。
 店内はやや静かな音楽が流されており、くつろぐことが出来る店なのか、と思ったりもした。
 僕が入店して五分ほどたった時だった。
 中高年のグループ三人が入ってきた。みんな男だ。
 入るなり、「ビーフシチュー、ライスで」などと注文している。
 ジーパンを履いている者もいて、年齢は三人とも六十歳以上の高齢者だ。僕とはテーブルを一つ挟んで、店の真ん中のテーブルを陣取った。
 最初は、趣味のグループか老人会のグループかな、と思っていた。
 そういう客が常連客として来たのだろうと、と簡単に考えていた。
 やがて、僕の注文したピザとサラダ、ウーロン茶が来た。
 さあ、食うぞと言い聞かせて、一切れずつ食い始めた。
 そんな時だった。男たちの話す声が断片的に耳に入ってきた。
 保険金。
 放火。
 サツ。
 留置。
 拘留。
 自白。
 弁護士先生。
 エッと思った。
 サツとは警察のことだ。
 この単語で連想できるのは、彼らが警察官か、それに近い関係者。またはその反対で犯罪関係者。これしか考えられない。
 僕は新聞記者としてこうした単語をよく業界用語として使うから、使う人間や世界は限られてくるのだ。
 ちょっと驚きながら、ピザを食い続けた。
 こんな会話も聞こえた。
 あいつは放火で保険金をもうけたけど、警察には自白しなかったから一年間も拘留された、と。
 これは警察官や警察関係者の会話ではない。そう感じた。
 そう、残るのはその正反対の業界、暴力団関係者だ。ヤクザだろうと思った。
 やばいかな。
 変に声をかけられないよう、ピザを食い続けた。どろどろに溶けたチーズをフォークですくい上げ、手でつかんで食った。手も汚れてきた。ティッシュペーパーで何回も拭いた。
 変な店に入ってしまったなあ。土曜日の昼休みに、ヤクザなんか入れるなよ、と思った。
 そんな時だった。
 携帯電話でしゃべり続けている女が入ってきた。
 入店と同時に、その男三人が直立して、「おはようございます」と挨拶をするのだ。
 挨拶からして、この女が、三人にとっては上のレベルであることが分かる。
 そう、あねご、姉御、ねーさんなのだろう。
 ぎょっとした。
 早く食い終えないと。
 早く店を出ないと。
 そう思ってようやく食べ終えた。
 カネを支払って、店を出た。
 もうこんな店来ないぞ、と思った。
 田舎の町は、こうした輩が堂々と店に入ってくる。
 住みづらい街だ。

(続き)



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