バックナンバー




撮影者紹介

ぱぴるす

1967年生まれ。北海道大学馬術部OB。平成2年福岡国体総合馬術7位入賞。人と馬のコミュニケーションをテーマに乗馬を続け、今日に至る。最近は馬の長距離騎乗競技(エンデュランス)にも出場、全日本大会(鹿追町)で100kmを完走している。
自宅は札幌にあるが、現在仕事の都合で熊本県在住。北海道で自分の牧場を持つという夢に向かって、現在着々と準備中。


リンクはこちらへ

 


○Seat10

 Seat9からかなりの時間が経ってしまった。その間に、季節が移り変わり自分の周りでも馬に関していろいろなできごとがあった。そのひとつひとつを回顧するだけでも結構なエッセイが書けるところだが、「蹄の音は物語のようでつながりがあっていいですね」というコメントをいただいたりしているので、路線を変更せずそのまま書いていこうと思う。

 Seat9では、馬が何を考えているのかを理解するためには、馬の行動、仕草を知り、馬の表情をよく理解することが大切であると書いた。書くだけなら簡単なことなのだが、実際に理解しようとすると非常に難しい。特に馬術部に入部したての1年生などは、馬に接したことなどない人間たちの集まりだから、馬に対して迷惑をかけ、時にはトラブルが発生したりする。
 馬の手入れの中でブラシがけというのがある。ブラシがけは、馬の毛についたほこり、汚れを落とし毛並みをそろえる作業である。清潔にすることのほかにブラッシングにより馬の筋肉をマッサージする効果があるとも言われている。たいていの馬は猫が自分の毛を毛づくろいをするようなことはできないから、ブラシがけされることはあまりいやがらないものだが、なぜか私がいた馬術部にはブラシがけを嫌がる馬が多かった。その中でも最もブラシがけを嫌がる馬なんかは、人に噛み付こうとするものだから、部員が叱るとブラシがけの時には耳を寝かせて鼻面を左右に振って精一杯我慢していた。
 ある日、私は不用意にもブラシがけの真っ最中であるその馬の前にぼんやりと立ってしまった。と、次の瞬間自分の左の胸めがけてその馬の口が飛んできてガブリとやられた。もちろん出血するし馬の歯形は残るしで大変だったのだが、そもそも自分が、馬がブラシがけを我慢しているというのを判断できなかったこと、更には馬の前に立つということが馬の動きを封じ、束縛しているということに気づかなかったことに噛まれた原因があった。相手が人間であれば「どいて」とか「あっちへ行って」といった言葉で相手に意思を伝えることができるが、馬は言葉を発することが出来ない。噛み付いた馬にしてみれば、ブラシがけで我慢して更に人に自分の前に立たれて自分の動きを封じられて、我慢の限界に達して噛んだ正当防衛だったのだ。
 私の左胸には、今も噛まれたときのアザがなんとなく残っている。もう15年も経っているのに…。馬が何を言おうとしているのか、いつも考えなさいよという馬からのメッセージが残っているのかも知れない。

(続)

 

 

 



| 全道マップ | 会員規約 | 免責と注意事項 | 著作権とリンク | 広告募集 | お問合せフォーム | ホームページ製作|
Copyright(C) 2002 Hokkaido-club.com All rights reserved.