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作者紹介
衛藤 聡
1961年登別市生まれ。登別市在住
趣味:北海道らしく美しい風景を求めて最近はもっぱら山に登る。(半分は運動不足解消のためかな?)
仕事:これまた北海道らしい建築を求めて、日々建築設計活動中。


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衛藤聡建築事務所
http://www7.plala.or.jp/etaa/


 ■第9話 「唇山」

迷ったあげく夕食前に家を出た。
途中、苫小牧でラーメンを食べた。
味噌とカレーのバランスが絶妙の味噌カレーラーメンだ。
店を出た時にはすでにPM8:00を回っていた。
目指す糠平湖畔に着くのは0:00を過ぎるだろう・・・
と思いながら車を走らせた。
日高山脈をまたぐ日勝峠の新しいトンネルを抜けた。
十勝平野の街灯りが見えた。
ぺケレ展望台で車を停めた。
雨でも降っていないかぎり、僕はこの展望台で
広い広い十勝平野や、その向こうにつづく山並みを眺めるのが常だ。
そうすると北海道の東へ来たことを実感する。


展望テラスへ上がった。
峠下の清水町の街灯りがオレンジ色に綺麗に見えた。
遠く帯広市のそれは、この広い平野の中で、
何故か集まっているように見えた。
鹿追町を抜け北へ向かった。
やがて平野部も終わりと見え、坂道にさしかかった。
辺りにはもう車のライト以外、灯りは無い。
先ほどから今夜は晴れた星空なのは分かっている。
秋、山奥で見る星空は一段と綺麗だ。
だけど終点の糠平まで取っておくことにした。
坂道を登り切り、トンネルを抜けるといきなり辺りが明るくなった。
然別湖畔だ。
だけどもう夜半・・・人影は無い。
アッサリ通り過ぎた。
ここからしばらくは湖岸の狭いグニャグニャ道路になるはずだ。
カーブのたびに車のライトに照らされた森が不気味に目の前をよぎる。
僕は自然に車の速度を落とした。
いたるところで樹木が倒されている。
あの台風18号のせいだ。
道のすぐ脇下には然別湖の湖面があるはずだ。
然別湖は北海道の中で一番高い所にある湖だ。
標高は800Mを超えている。
周辺の小さな山々にグルリ囲まれたような小さな湖だ。
さらに北へ走り小さな峠を越え、目的地の糠平湖畔に着いた。
やっぱりすでに日付は変わっていたし、頭も少しボーッとなっていた。
明日・・・ではなくて今日登る山は、さらに北へ15kmほどのところにある。
車を停めることなく、もう少し山に近づきながら
車中泊できそうな場所を探すことにした。
真正面の空にオリオン座がよく見えた。
学校で星の勉強をしているらしい娘に
「カシオペア教えて・・・」と言われているのを思い出した。
あづましく眠れそうなところがなかなか無い。
しばらくすると『左折・芽登』の標識が見えた。
「芽登・・・めと?・・・えっ??・・・」
車を路肩に停め、買ったばかりの真新しい地図を開いた。
「わっ・・・帯広に向かってUターンしている・・・」
頭がシャキッ!となった。
車を戻し再度湖畔へ向かった。
思えば『直進・帯広』・・・そんな標識を見たような気がした。
北へ向かう車の正面に、東の空に見えるはずのオリオン座が
見えるわけがないのだ!
湖畔を過ぎ今度は間違いなく北へ向かった。
途中の広い駐車場で車を停めエンジンを切った。
何時間も耳にこびりついていた音が消えスーッとした。
外に出た。
もうこれ以上散りばめる隙間がないほどの星空だった。
一瞬、「煙?・・・」と間違えるほど、天の川がハッキリ見えた。
空を見上げながらビール片手にフラフラと辺りをうろついた。
娘に見せてあげたい・・・と思った。
ビールが無くなった。
僕は車の中で寝袋に潜り込んだ。

(つづく)

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