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作者紹介
渡辺 俊博
道中作文画家
デザインスタジオ・ズウ代表

昭和23年北海道夕張市生まれ。
印刷会社、広告代理店勤務のち昭和54年デザインスタジオ・ズウ設立フリーとなる。
「北海道各駅停車見て歩き食べある記」「北海道おいしいもの見つけ旅」(北海道新聞社)、豆本シリーズ「小樽散歩」「函館散歩」「夕張散歩」(自費出版)などの著書があるほか、旅のスケッチ展を数回開催。
現在、JR北海道社内PR誌「ズウさんの俳諧旅日記」コーナーを執筆中。
古い町を旅するのが好き。ほのぼのとした人情を感じさせるイラストが人気で、最近は旅の絵手紙と俳句に凝っている。

「絵手紙ズウさんの痛快・駅前探見」
著者 渡辺俊博
発行 北海道新聞社
定価 1400円(税別)

第11話:

〜札幌市 しま〜

 サンドイッチは、その昔、英国でトランプ遊びにこっていたサンドイッチ伯爵が、トランプを続けながらたべられるものとして考案したという。
 ぼくは、その伯爵でもたべなかっただろう<かつサンド>をたべるため、JR白石駅のそばにある、とんかつ専門店<しま>ののれんをくぐった。
 お店は嶋利明さん、奈美江さん夫婦二人で切り盛りをしている。実家が網走の旅館だという利明さんは、北見の調理師学校をでて、札幌のとんかつ屋さんで十二年間も腕をみがいたという。
「始めは二、三年修業するつもりでいたら、いつの間にか十二年も経って。当時の親方は職人気質で厳しかったですよ、ほんと…」
 独立して白石に店を構えて二年余り。
 さっそくかつサンドを頼んだら、「持ち帰って、パンとかつがなじんでからたべた方がおいしいですよ」と教えてくれた。ぼくはカウンターごしに、わくわくしながらできあがるのを待った。
 なんといってもとんかつは肉がいのち。いかにしてそのうま味を出すかが秘訣らしい。
 「うちのかつは道産豚の生を使ってます。やっぱり生じゃないと、本当のうまみがでませんから」と肉を見せてくれた。

 かつサンドには、贅沢にもやわらかくてたべやすいヒレ肉を使っているそうだ。
「パン粉はね、生パン粉でほかの店よりもかなり荒くけずってます。カラリッと揚がってサックリ感がぜんぜん違うんですよ。」
 そう言いながら、肉をいとおしむかのように、優しく優しくパン粉をまぶしている。パン粉つけだけで三年はかかるという。
 衣を着た肉が、揚げ油の中にそっと沈む。
ジュワジュワ……小さな泡をたててかつが揚げられていく。利明さんの目は真剣だ。揚げ油はあっさりと揚がるように植物油を主体にブレンドしているそうだ。

 アツアツのキツネ色に揚がったところへ奥さんがパンを差し出す。かつサンド用に特別に作ってもらっているパンだ。
 うすく焼き色がついていて、マスタードバターとカラシが塗ってある。その上にパンからはみだしそうなヒレかつをのせてソースをかけ、キャベツのせん切りをびっくりするくらい山盛りにのせた。またパンをのせて静かにおさえて、かつサンド一丁できあがり。
 これは家に帰っての楽しみだ。
 とんかつも揚げてもらってたべた。カラリッといい色に揚がったとんかつに、店特性のソースを多めにかけた。
 「とんかつはね、右から三番目からたべるといいって言いますよ」とご主人が言う。
 さっそくその三番目をパクリッとたべた。
サクッとした口あたりのいい衣。衣が崩れて中からアツアツの肉が顔を出す。ほどよい脂身と肉汁が口の中に広がり、とてもうまい。これぞとんかつの真打ち!
 うず高く盛りつけれれたキャベツの量も、うれしいくらいたっぷり。名人芸と言いたいくらい細切りで、歯ざわりもいい。
 「それだけ細く切るのに七年かかるよ」と利明さん。「女房とキャベツはね、南幌産がいちばんなのよ」と南幌出身の奥さんがニッコリ笑って言った。


 さて、家に持ち帰ったかつサンドは?厚みは作った時の半分くらいになったが、けっこう重い。大きな口でパクリッといった。かつとキャベツとパンがしっとりなじんでいてとてもうまい。これぞ三味一体。主役のかつは揚げたてのサックリ感はないが、衣にソースがしみているところが特にうまい。ボリュームもありクセになりそうだ。
 パン粉三年キャベツ七年揚げ一生……とんかつはおいしく奥が深〜い庶民のごちそうなのだ。
(続)

絵と文 「北海道 おいしいもの見つけ旅」(北海道新聞社)より



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